いつも楽しく拝見しています。
Autoimmunity関連で次のようなpreprintが流れてきました(著者解説https://x.com/DrDenDunnen/status/1796901736151392282)
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2024.05.30.596590v1
LongCOVIDが気になるお年頃なのですが、この研究、どれくらいインパクトを持ちそうですか?
専門外なので、「げっ、」という感想を持ったままフリーズ中です。
ご教示賜れますと幸いに存じます。
大変興味深い研究のご紹介、有難うございます。Long Covidの患者の血清プロテオーム解析を行うとGFAP(グリア細胞マーカー)・Type 1 interferon発現レベルによって3群に分けることができ、各々の群から得られたIgGをマウスに注射投与するとそれぞれ異なる3様の反応を示した、という研究ですね。
ある疾患が自己免疫疾患かどうか、というのを判定する基準にWitebsky's postulateというものがあり、その基準のひとつに「患者からの自己抗体を実験動物に投与すると類似の疾患・症候群を惹起できる」というものがありますので、Long Covidが自己免疫的な機序を持っていることのindirect evidenceと言えるでしょう。
過去には、Complex Regional Pain Syndrome(CRPS)や線維筋痛症について同様の報告があります〔PMID: 21075025, 34196305〕。いずれも興味深いのですが、再現性は確かめられておらず、またそのような自己抗体(が存在するとして)の除去が症状の改善に結びついたという報告も現時点では存在しないと思います。
再現性の問題に加えてコメントするとすれば、34例と比較的少ない患者数で、3群に分けたpooled IgGを注射している(つまり、同一群内の患者間の差は考慮されていない: 一部の患者が極端にautoreactive IgGを産生している可能性)、IgGのサブクラスは検討されていない、IgGが何をepitopeにしたのかこの実験では不明(そもそもIgGの自己免疫的な機序によってマウスの変化が起きたのかどうかも不明)、などのlimitationsがあります。
そういうことで、「とても興味深いが、再現性の有無・IgGが症状を惹起するメカニズム・実際に抗体の除去で症状は改善するかどうかなどの検討が今後待たれる」あたりの感想を持ちました。途中のmethodsについて詳細なツッコミは入れられませんが、臨床免疫屋としての感想は以上になります。