社会保険料の逆進性についていっちーさんはどのようにお考えですか。

ご質問ありがとうございます。 社会保険料にもいくつか種類がありますが、ここでは私の専門分野である年金制度に関してお答えします。 年金制度の社会保険料に「逆進性」があるとするならば、おそらく、「第1号被保険者（国民年金の加入者）」と「高所得の第2号被保険者（厚生年金の加入者）」かなと思います。 国民年金保険料は定額であり、所得に関係なく一律の金額が課されます。そのため、低所得者にとっては所得に占める保険料の負担割合が高くなり、高所得者にとっては相対的に軽くなる、という意味で「逆進的」と言えるかもしれません。 一方、厚生年金保険料は、標準報酬月額・標準賞与額に対して一律の料率（9.15％）をかけて決定されるため、基本的には「比例的」な仕組みであり、累進でも逆進でもないといえます。ただし、標準報酬には上限が設けられており、それを超える高所得層にとっては、実質的に保険料の負担率が下がるため、この部分に「逆進性」があると指摘されることがあります。 ただ、そもそもの話として、「逆進性」や「累進性」というのは本来、税制に対して使われる概念であり、社会保険料に適用するには注意が必要だと私は考えています。 社会保険の財源に関する議論で、税方式か社会保険料方式かというのが度々議論になります。 両者のメリデメはいくつかありますが、社会保険料方式が採用されている大きな理由のひとつに、「給付と負担の関係性の明確化」があります。たとえば、「国民年金では40年間保険料を納めれば、年額約80万円の老齢基礎年金を受け取れる」というように、負担に応じて給付が決まっています。厚生年金も同様に、保険料負担が大きいほど給付も増えます。 一方で、税金にはこうした対応関係はありません。どれだけ税金を納めても、その額に比例して具体的な恩恵が約束されているわけではありません。こうした構造の違いを考慮すると、社会保険料に「逆進性」や「累進性」といった税的な概念をそのまま当てはめるのは、少し無理があるようにも感じます。 とはいえ、厚生年金には基礎年金部分が含まれており、制度設計上は一定の所得再分配機能を持っています。また、在職老齢年金など、「給付と負担の関係」から外れるような制度も存在します。さらに、世間的には、「応能負担（＝負担能力に応じた負担）」という言葉で、所得の高い方にはより多く負担してもらうべきという考え方もあります。「逆進性」や「累進性」を含めてこれらを論じることそのものを否定するつもりはありません。 その前提で、年金制度における2つの「逆進性」について2つコメントします。 まず、低所得者について、定額の国民年金保険料が所得に対して非常に高い割合を占めることは、望ましいとは言えません。ただし、そのために免除制度や納付猶予制度が整備されています。これらを適切に活用することで、現状でも一定程度の配慮はなされていると考えています。 次に、高所得者について、厚生年金には上限がありますが、それは給付額が一定以上に膨らむのを防ぐためです。そもそも年金制度は「老後の生活保障」が目的であり、高額給付は制度の趣旨に合わないとされています。その意味で、上限が設けられているのは合理的です。 なお、最近の法改正で保険料の上限を引き上げる動きがありますが、これは標準報酬月額の分布などから見直す必要があるという考えに基づくもので、一定の合理性があると私は思います。 もし今回の回答がご質問の意図とずれているようでしたら、ぜひ再度ご質問いただければと思います。より的確にお答えできるよう努めます。