靴の質問があったので。店主さんが考える良い靴の条件って何でしょうか？セレクトの基準、店主さんの好み併せてお聞きしたいです。

背筋の伸びるご質問、有難うございます。 「良質な素材」「丁寧なつくり」「美しく歩きやすい木型」…それはもちろん重要な大前提ですが、ときに絶対的条件ではありません。 個人的好み、そして当店のセレクトで最重視ポイントとしているのは、大きく分けてふたつ、「履き物としてのリアリティ」「目的に対してのアプローチ」の高さです。 抽象的な表現ですので例を出しますね。 まず「履き物としてのリアリティ」。 これは、単に素材やつくりが高級、本格的かどうかというスペック的なところより、実用品として長く飽きずに履けるのか、ということです。 足に優しい木型、快適な歩行性、装いに馴染みやすく、かつ飽きにくいデザイン、そして躊躇なく履ける価格帯。 これらを高水準でバランスよくクリアした靴が、私の考える「良い靴」です。 そして「目的に対してのアプローチ」、先に挙げた条件を満たさない部分があった場合も、ここをクリアしていればそれもまた「良い靴」です。 筆頭がブランドストーンですね。 素材は大していいものではなく、加水分解するソール、修理しづらいつくり。 けれど、丈夫で歩きやすく服に合わせやすい、悪天候にも強い。そして価格も手頃。実用靴としてのレベルが圧倒的です。 この実用靴としての目的のためには、高級な素材や手のかかる製法は却ってネガティブな要素になるんですね。 ゆえに、たとえ素材や製法が高級靴に比し「劣って」いたとしても、目的に対してはブランドストーンのほうがはるかに「良い靴」なんです。 こうした実用的なポイントだけでなく、Post Productionのパンプスのように、多少歩行性能や耐久性を犠牲にしても、軽やかなファッションのための靴としての目的があってそこに対して誠実にアプローチしている、なおかつ素材やつくりに手を抜かず価格も高すぎない、というバランスを真面目に成し得ている靴もまた「目的」をハイレベルにクリアした「良い靴」に値すると思います。