2022年5月に「サイズリスクプレミアムを実務上、考慮するかしないか」、2023年9月に「マイノリティディスカウントを実務上、考慮するかしないか」のご質問がされておりました。
港区在住のM&Aバンカーかも。様が日頃係るような案件規模では実務上考慮されないのでしょうか。私も勉強しながら実際の業務をこなしておりますが、有名な価値評価機関様が出版されている専門書籍では「マイノリティディスカウント」を適用する解説の記載があります。
また、「サイズリスクプレミアム」をファーマフレンチの3ファクターモデルと絡めて解説されており、実際に当該価値評価機関様に委託し報告を受ける評価書(バリュエーションレポート)では10%程度の出資比率且つ100%価値で5-10億円程度の国内案件の場合で「マイノリティディスカウント」「サイズリスクプレミアム」を考慮されておりました。
しかしながら、別の価値評価機関ではほぼ似通った取得比率且つ100%で数億円程度でも「マイノリティディスカウント」「サイズリスクプレミアム」を全く考慮しないで評価書を報告する評価機関もあります。
この違いは、当該「マイノリティディスカウント」「サイズリスクプレミアム」に対する考え方の違いなのでしょうか。FAS系が出版されている専門書籍も当該考え方はずばりと記載せずにうやむやに記載がなされております。
港区在住のM&Aバンカーかも。様は、出資比率や100%価値が数億円程度の価値評価を行う場合、「マイノリティディスカウント」「サイズリスクプレミアム」は考慮されますでしょうか。考慮する場合、考慮されない場合のいずれも港区在住のM&Aバンカーかも。様がなぜそのように考えるのか、を含め、解説・ご回答をいただけますようお願い申し上げます。お忙しいところ誠に恐れ入りますが、よろしくお願いいたします。
港区M&Aバンカーさん
ご質問ありがとうございます。港区M&Aバンカーです。
過去質問もご確認いただいているとのこと、誠にありがとうございます。
私が最近関わっているような案件では、サイズリスクプレミアムやマイノリティディスカウントを考慮しないことが多いです。サイズリスクはスモールキャップを買収する際に考慮されることがあり、また、マイノリティディスカウントは支配権を取らない取引において考慮されることがあると、理解しています。
外資系投資銀行が扱うM&A案件は1,000億円以上の支配権を取得する案件が多いので、自然と関わる機会が減ってしまいます。しかし世の中的な件数でいえば、ミッドキャップやスモールキャップの案件が大多数ですから、必要に応じて、適当にそれらを加味して都合のいい数字を出せばよいかなと思います。評価の方法について、何か決まったルールがあるのではなく、評価する人がどういう論陣を張るかという信念次第なのです。
5-10億円規模のM&Aでサイズファクターを加味することは違和感ありません。出資比率が10%であればマイノリティの株式であることから、マイノリティディスカウントを考慮してもおかしな話ではありません。ようは、ロジックを以て相手を説得できれば、相手が納得すれば何でもいいのです。言い換えれば、相手が納得しないような論陣は張らないほうが賢明というものです。例えば、100%の取得の案件でマイノリティディスカウントを考慮した、などという意味不明なことは避けたほうがよいでしょう。
マイノリティディスカウントやサイズリスクプレミアムを全く考慮しない算定機関もあると思います。これらは見たい数字を出すための調整弁ですから、もちろん何も考慮しないほうが保守的で好ましいといえるでしょう。ご理解の通り、会社ごとの考え方の違いもあるでしょうが、クライアントが強く依頼すれば、織り込んでくれると思いますよ。どういう数字が見たいんだ、といえばいいと思います。すると勝手に、いろいろと工夫してくれると思います。
つまりですね、マイノリティディスカウントやサイズリスクプレミアムを考慮したかどうか、すべきかどうかが重要なのではなく、結果的に自分が納得できる算定結果を合理的に算出できて、交渉した結果、相手とうまく合意に至れるかが重要なのです。この辺りが、取引目的の評価と、会計目的の評価の大きく異なるポイントです。
私が評価する場合も、都合がいいときは考慮して、都合が悪いときは無視すると思います。それは評価者が勝手に決めていいことですし、一貫性がある必要はないです。取引ごとに考え方を変えてOKです。相手を説得できて合意に至れれば何でもありです。
同様の議論で、非流動性ディスカウントというのもあります。これも厄介なのですが、DCF法には適用すべきではないという判例が出てしまっている点が他の調整弁と比較した場合の留意点なので、もし興味があったら調べてみるとよいでしょう。