ティツィアーノ《ピエタ》でキリストの体が凄いことになっていますが、あれは何を表現しているのですか?薄暗いぼんやりとした絵というイメージだったのですが、カタログをよく見てみると生者とと死者で肌の質感が全然違うことに気づきました。また、ミケランジェロのピエタに影響を受けているらしいですが、ティツィアーノはパラゴーネで彼に勝てたのでしょうか?
右下にピエタの画中画がありますが、自己言及パラドックスみたいで面白いなと思いました。調べたことがないので全然わからないのですが、画中画はそもそもどういう目的をもって描かれたのですか?(なんとなくスペインや北ヨーロッパなどイタリア以外の地域でよく見かけるような気がします。)また、今作のようにその絵画の中に同主題の画中画が描かれることは他にあるのでしょうか?

東京藝術大学お嬢様部さん
形態の真実より感情の真実を重視した後年のティツィアーノらしい表現です。身体より死が訴える感情の表出をということで、極端に荒く、崩れています。もっとも未完の作品ですが。元々は自分の墓の上に置く作品として描かれていましたが、生地カドーレの教会に送ったものの要望が合わず返還、ヴェネツィアで再度描き出した時に流行り出したペストで死んでしまいました。小さな画中画で跪く二人の人物は返還後に追加されたティツィアーノと後継者の息子オラツィオだとされています。
普通画中画は絵に観念的な奥行きを出すためのトリックですが、この『ピエタ 』の場合は極めて私的な作品であり、そこまで錯綜した意味はないです。
ヴェネツィアでピエタはとても珍しい画題なので、フィレンツェ出身の彫刻家・建築家サンソヴィーノという友人が教えてくれたのかもしれません。ミケランジェロの《フィレンツェのピエタ 》も自分の墓のためというものでしたし、芸術家×死の意味合いをティツィアーノは知っていて描いた感がありますが、パラゴーネをここにまで見るのはパノフスキーくらいじゃないかなと。これは輸出用でも商品でも美学的プロパガンダでもなんでもない、ティツィアーノの極私的な作品なので。