https://x.com/sakaiman100/status/1879325505855647753?s=46&t=JguSRwKd1dNnZ9uErJ8PGw
こんなの見て気になったんですが、基本合意書って価格を記載するのが通常ですか?価格というより、買い手の想定範囲を示す感じですか?
あと、DD(デューデリジェンス?)前の基本合意書に値下げ不可という文言って通常入れるものですか?案件規模や交渉によりますか?
これは実務的なご質問ですね。M&Aの交渉について簡単に書きます。
案件規模にもよると思いますが、基本合意書に価格を記載するのは一般的です。書かないケースもありますが、書くケースのほうが多いんじゃないかと思います。
価格の趣旨は、ご理解のとおり、単なる買い手の想定額であって、今後変更される可能性があるものです。というより、基本的には値下げ交渉をされます。基本合意書の価格×0.8くらいが相場ではないかと思います。もちろん、DDの結果、条件が良ければ基本合意書どおりの価格で妥結することもあります。
価格交渉について考える際は、売り手と買い手の交渉力について、把握しておく必要があります。
全く同じ会社が2つ存在することはあり得ないので、1つ1つの企業には、独自性があり、希少価値があります。そのため、基本的には売り手のほうが交渉力が高いです。希少価値のあるものを売る側だからです。
しかしながら、交渉が進んでいくにつれて、買い手の交渉力も高まってきます。
多くの企業は、長所は自らアピールするんですけど、短所は隠そうとします。そのため、DDや交渉が進むにつれて、短所ばかりが増えていきます。売り手側からすると、「新たにアピールできる長所はもうないのに、短所は追及されてしまう」という状態が続きます。
売り手にとってのM&Aの交渉は、「希少価値のあるものを、高く売るチャンス」ですから、できれば逃したくないわけです。交渉が進めば進むほど、チャンスを逃したときの心理的ダメージは増えますし、実費(弁護士費用など)も無視できない金額になっていきます。
一定のタイミングで、交渉上の立場が逆転します。「思ったよりも短所が多かったので、別に買わなくてもよいと思っている買い手」と、「短所が見つかってしまったが、費用もかかっているので、何とか売ってしまいたいと考えている売り手」という構図になります。
基本合意書の話に戻ります。基本合意書は、交渉の初期段階で締結するものなので、この時点では売り手のほうが交渉力が高いです。
売り手は、記載する金額を引き上げろとか、価格の下方修正は認めないとか、そういう主張をします。買い手も、この時点では交渉力が低いので、売り手の要望に応じることもあります。
しかし、案件の終盤になってくると、上記のような背景から、買い手のほうが交渉力が高くなっていきます。「売り手の要望に応じて、基本合意書には高い金額を記載したが、とてもじゃないけどこんな金額は払えませんよ」みたいに言い始めます。
そして、今度は売り手が妥協する番になります。「そうはいっても、2割引きくらいの金額では買っていただけませんかね?」みたいなコミュニケーションになって、基本合意書よりは低い金額で妥結するというパターンが多いです。
補足をすると、基本合意書は契約書ではなく、法的拘束力はないことが多いです。誤解を恐れずに言えば、口約束よりも軽い約束です。(口約束は、場合によっては法的拘束力を持ちますが、基本合意書は、法的拘束力がないことが明記されています。)
だからと言って、あまりにも無責任な条件を提示するような買い手は、業界内で信頼を失います。そのため、買い手から見て、最低限の現実性がある内容で締結されていることが多いです。ただ、これは法律や契約で定められていることではなく、あくまで信義則でそうなっているだけです。
こういった点を踏まえると、引用していただいているツイートは、「非常に典型的な、交渉慣れしていない売り手」みたいな感じに見えます。