いつもためになる回答をありがとうございます。
本日室長さんのご意見伺わせていただきたいことがあり、質問させていただきました。
妻:34歳、今のところ問題なし
夫:39歳、中度乏精子症・精子無力症(運動率21%)、泌尿器科で受けた染色体検査は異常なし
顕微授精一択で、4ABと4BBを凍結し1つずつ移植しました。
刺激方法、採卵数などは以下の通りです。
刺激方法:低刺激
採卵数:5個(内1つ未成熟)
受精数:4個
胚盤胞:3個(内1つグレード低くて廃棄)
移植①は胎嚢確認までできましたが、胎嚢内が空っぽだったため流産となりました。
移植②は化学流産となりました。
化学流産は流産にも入らないと思いますが習慣流産を疑って、早めに不育症の検査を受けた方が良いでしょうか?
もう凍結がないので採卵もしなければならないのですが、不育症の検査→採卵の順番で進めていくか、採卵→不育症の検査→移植と進んでも問題ないでしょうか?
不育症の検査結果や治療が採卵にも関わるものなのか分からず、ご教示頂けると嬉しいです。
長々と申し訳ありません。
よろしくお願いいたします。
胚培養士ぶらす室長@不妊治療さん
tipsによるご質問ありがとうございます。
まず、前提として明確な基準や正解のないご質問であるという事を前置きしておきます。
その上で、順番にご説明させて頂きます。
◯不育症の定義
日本産科婦人科学会では、「生殖年齢の男女が妊娠を希望し,妊娠は成立するが流産や死産を繰り返して生児が得られない状態」を不育症と定義しています。
流死産は連続している必要はなく,すでに生児がいる場合でも不育症に含める。生化学的妊娠,異所性妊娠,絨毛性疾患は流産回数に含めない。としています。
「繰り返して」という事で、一般的には2回以上の流死産と定義している場合が多いです。
そのため、今回のケースでは不育症とは定義されず、不育症の検査は推奨されないと言えます。また、
◯不育症の検査の種類
代表的な不育症の検査なは下記のようなものがあります。
・子宮形態検査
子宮の形の異常や粘膜化子宮筋腫などが流産を引き起こすリスク因子となる事から、それらの異常を調べる検査です。
・抗リン脂質抗体検査
血栓症の原因となる抗リン脂質抗体を調べる検査です。これらの血栓症素因が陽性となると、着床後の胎児発育に影響して流産するリスクが高くなる事が報告されています。
・夫婦染色体構造異常検査
夫婦どちらかに、受精卵の染色体に影響する染色体の形の異常がないかを調べる検査です。
もし、どちらかに異常があった場合(異常の種類によりますが)受精卵の染色体異常の割合が高くなり、流産リスクが高くなります。
・甲状腺機能検査
甲状腺から分泌されるホルモンは子宮内膜の組織に作用し、子宮の血管新生や免疫機能に影響を与えるため、流産リスクを増加させる事が知られています。
甲状腺機能は一次スクリーニングとして推奨され、TSHとFT4を測定し,異常があれば抗甲状腺ペルオキシダーゼ(thyroid peroxidase:TPO)抗体の有無を確認します。
◯採卵と不育症検査のどちらを先に行うべきか
基本的に、不育症の検査の項目の中で採卵の成績や胚発育に大きく関わるような項目はありません。
ただし、上記の検査の中で卵子や受精卵に関わる可能性があるものが2つあります。
1つ目は、夫婦染色体構造異常です。
説明にも書いたとおり、受精卵の染色体異常を引き起こす因子ですので、受精卵の発育に影響を与える可能性はあります。
この検査で異常が見つかっても根本的な治療はありませんが、採卵前に知っておけば、PGT-SRを行うかどうかを検討する事ができます。
2つ目は、甲状腺機能検査です。
甲状腺ホルモンは、子宮内膜の発育に作用する事が知られていますが、特定の症例において異常な甲状腺ホルモンは卵子の成熟や胚発育に関与する可能性も報告されています。
採卵前に調べる事で、採卵前から甲状腺機能の治療を念頭におく事ができるかもしれません。
最後に、これらの不育症検査で何かしらの異常が見つかる割合は非常に低くく、不育症の定義に当てはまった症例に対しての検査でも約30%程度しか見つかりません。
そのため、私は採卵前どころか現状の不育症検査はあまり推奨していません。
しかし、何か原因が後から見つかった時に保証もできないので、主治医の先生とよくご相談の上で検査の実施とその後の治療プランについてご検討ください。
以上です。
ご参考になれば嬉しいです。