キャリアについてご相談させてください。
現在、30代後半で、中途採用で入社した上場企業に勤めています。バックオフィス業務に携わっており、残業は少なく、年収も決して高くはないものの、一定の水準は維持できています。
一方で、比較的大きな上場企業ということもあり、今後のキャリアを考えると、順調にいっても課長が一つの到達点になるのではないかと感じています。課長になれれば十分恵まれているとも思いますが、実際にどこまで昇進できるかは分かりません。
そんな中、知人からIPO準備中の会社に誘われました。部門責任者として迎えたいという話で、年収は現職より300〜400万円ほど上がり、ポジションも大きく上がる見込みです。自分にとっては非常に魅力的な話であり、挑戦してみたいという気持ちもあります。
ただし、懸念もあります。知人が役員を務めている間はよいとしても、将来的にその知人が役員を退いた場合、自分の立場が不安定になる可能性があります。また、IPOが実現しないリスクもあります。そう考えると、非上場の小規模な会社に移るよりも、現職で昇進を目指すか、別の大企業に転職してキャリアの上振れを狙う方が合理的なのではないかとも考えています。
一方で、正直なところ、今の会社に残るにしても、別の大企業に移るにしても、似たような環境で働き続けることには物足りなさを感じています。自分が責任ある立場で組織を動かし、事業や会社の成長に深く関わる仕事に挑戦してみたいという思いもあります。
さらに、まだ小さな子供がいることや、最近住宅を購入したばかりという事情もあり、家族や生活の安定を考えると、簡単には決断できません。
安定した環境で着実にキャリアを積むべきか、それともリスクを取って、自分の可能性を広げる挑戦をすべきか。
中田さんであれば、今回のような状況で何を重視し、どのように判断されますでしょうか。ぜひ率直なご意見を伺いたいです。
よろしくお願いいたします。

中田:‖さん
すごくありがちな話ですね。私のところにも、周りの同僚にもよく来る話です。
端的に申せば、「とても良い経験になるだろうから積極的に考えてよいと思う、が、IPOが実現しない可能性の方が圧倒的に高いため、その際には現職あるいは同業他社に戻ってくることを想定しておこう」です。
私のところに「IPOを手伝ってくれ」と声をかけてくれたスタートアップは過去に100社くらいあり、その後本当にIPOが実現した会社は2社くらいしかありません。うち1つは小規模で上場し、私に提示されたストックオプションは1,000万円相当だったと計算され、「IPOでエグジットしてウハウハ」の世界は簡単ではないのだと外部から見ていても思います。
私を誘ったCFOが半年後に他社に転職していたこともありました。ご懸念の通り、その知人が長く務めるわけではないリスクは最初から勘案すべきです。
仮にIPOができてもそれまでに残れるかという問題もあるでしょう。スペースXの上場に際してはただの従業員もかなり儲かったという話もありますが、あの会社で5年続けて働くことは困難なくらいハードな会社だったというエピソードも漏れ聞こえますので、上場を目指す企業で「ただの従業員」であることのハードルも低くはありません。
IPOを目指してスタートアップに転職しつつも頓挫して証券業に戻ってきた同僚も5人くらいいます。これはこれで、顧客側を経験したことを活かして証券業ができるので、結果として悪くはないキャリアパスだったのではないかと思います。業界に戻ることができるならダメージが少ないと言えますね。
スタートアップに転職して、IPOが未だ実現できていないけれども満足そうに続けられている元同僚は2人ほどいますが、どちらもキャッシュの給料が十分に高いという点がポイントです。取ったリスク分の給料がちゃんと払われていたら「こんなはずではなかった」とはなりにくいでしょう。その点、400万円の上乗せというのはちょっと心許ないです。現職に留まっていてもそれくらいは数年で実現できるでしょうし、福利厚生の差もあります。数年後、「転職しなければあの会社でこの給料だったのか…」と思ってしまうことが危惧されます。
他方で、見た目の職位が上がるというのは多少有利なポイントで、「責任者として現場を率いてきた」と言えるポジションであったことはいずれ今の業界に戻ってくる時に有利になります。ただ、これもスタートアップ故のリスクはあり、オルツみたいな組織ぐるみの悪事を働いている企業だったりすると、そこの責任者であったことは逆に転職時にマイナスに働きます。「あれをやらかした人ですか…」的な目で見られますから。だからこそそういうリスクを引き受けるだけの報酬は初期から確保せねばなりません。「そんなマインドの奴は来なくていい」というスタートアップ界隈の人もいるでしょうが、バックオフィスのような業務だとわざわざスタートアップを選ばなければいけない理由は非常に低いので、相応の報酬がないと来てくれないことはむしろ痛感していらっしゃるのではないでしょうか。
住宅を買ったばかりなのはむしろポジティブな要素ですよ。スタートアップだと住宅ローンが降りないことあがるので、大企業に勤めているうちにローンを組んでおくべきです。これもスタートアップに転職・創業した人が異口同音に言うことです。住宅ローンは見通しが利く上に関係者がマトモなので人生のリスクやコストの中で重い方には属しません。それこそ「転職先がオルツだった」みたいなリスクの方がよほど恐れるべきことです。
ちなみに、会社によっては「競合他社でない先であれば出向扱いにしてくれる」ことがあります。出向なので本籍は現職に留まれますし、年金制度的にも多少有利で、必ず戻れるという安心感もあります。出向先ではあまり責任あるポジションに据えてくれなさそうではありますが、検討しても良い選択肢ではないでしょうか。
「せっかくだからいろんなことに挑戦してみたい」気持ちはよくわかるので、挑戦するリスクとコストに見合った報酬とセーフティーネットに気をつけつつ挑んでみて良いと思います!