従業員5名の町工場に勤務する30代エンジニア男です。
関東の某県でひっそりと活動しているものの、広い世界を視野に入れて活動した方が良いと思い、いつも中田さんのTwitterと質問箱の回答を拝見して人生の指針にしております。
今回質問したいのは、会社の決算書の読み方についてです。
私の勤め先は非上場の企業で会社のホームページすら用意していない、FAXも現役で使っているような会社なのですが、ふと自社の利益がどれくらい出ているのだろうと気になり、社外に公開されていない決算書を閲覧しました。
(経理部からは『社長から従業員にもこれを絶対見せるなと言われている』と念押しされたので、正規のルートではありません)
(長年勤められた大ベテランの経理社員は数か月前に退職しており、入れ替えで採用された新人経理に頼み込んでお忍びで閲覧が叶いました)
その結果、決算書内の損益計算書の数字から計算すると2022年度、2023年度、2024年度の3期に渡って
売上総利益率87%、80%、83%
売上高営業利益率63%、40%、50%
売上高経常利益率64%、40%、50%
売上高当期純利益率46%、25%、33%
という経理分野素人の私から見ると信じがたいほどの利益が出ている(ように見える)決算でした。
※会社は非常にニッチな分野でインフラ関連の物作りをしています。
※創業は昭和の頃で50年は続いている企業です。
※売上高は毎年平均5千万円規模、2023年度は受注が少なく売上高3.5千万円でした。
今回ご質問させていただいた経緯としては、中田さんの過去の質問箱回答である以下を拝見し、ならば私の勤め先は儲かっているのだろうかと気になったからです。
https://querie.me/answer/v52Bb73cBhrSsMIeM5ng
正直に言いまして、私がいただいている給与は物価高に対応できておらず、現時点で年収300万円台前半と言ったところです。
※そしてこじんまりした職場なので、私より理系の知識があるベテラン社員も私と月収の差が1万円もない事を把握しています。
学生時代の同期からは同窓会で会うたびに『そんなところに居ても将来無いからさっさと転職しろ』と言われ続けながらも、私は『このニッチな仕事が気に入っててやりがいあるから』と言い続けて働いてきました。
しかし、この決算書の内容を見て『我々はもしかして会社からも軽く扱われているのではないか』という思いが生まれてしまい、数日前から業務に集中できなくなっています。
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最終的に中田さんに質問したい事としては"非上場の株式会社の決算書は、厳密に正しい内容が記載されているのでしょうか?この損益計算書の数字を信じて良いのでしょうか?"です。
私がずぶの素人のため『一般公開しないからって実はでたらめに数字載せてるだけなんじゃないか、本当は対して儲かってないんじゃないか、私が募らせているこの被害者意識はただの勘違いではないのか』という可能性を払拭すべく、知見のある方に話を伺いたいと思い質問させていただきました。
また、先述したURL内の回答で中田さんは『そもそも、自社の損益計算書を見てみれば、本当に給料を上げる余地があるのかというところの検証ができるはずです。』とありますが、それを検証する手順についても教えていただけないでしょうか。私が上記で記載した4つの比率以外にも検証に使える計算があるのでしょうか。
お伝えせねばならないことが大量にあって困ってしまいますが、メッセージの要諦としては
・質問者さんが搾取されていることはほぼ間違いない
・給与交渉か、転職か、起業かのいずれかの道を模索して手取り給与を増やすべき
・決算書は「キャッシュフロー計算書」が極めて重要。キャッシュフローを見るべき
・会社の余力は割合だけでなく規模も重要、ただし小規模オーナーには役得がある
といったところです。
まず、決算書を見るまでもなく、質問者さんの年収が300万円台というところからほぼ搾取確定です。法で定めらられた最低賃金よりちょっと上くらいですよね?あるいは残業時間によっては最低賃金くらいかもしれません。でも最低賃金て、何のスキルがない人を日雇いで肉体労働させる際にも必ず払わなければならない額なのであって、エンジニアのスキルがある人をまったく想定していないのです。質問者さんのお仕事は、同じ時給で募集して集められるその辺のアルバイトが可能なお仕事なのでしょうか?もしNOなのであれば搾取確定ですよ。決算書を見るまでもありません。貴社の経営者は、スキルがない人を募集している時の賃金でスキルのある人を雇っているのです。本来は(1)正当な賃金を払うか(2)その事業を廃業するしかありません。不当な給料でしか成立しないならそれはビジネスではありません。ボランティアです。ボランティアならスキルがある人を最低賃金以下で仕事を依頼できますが(ちなみにボランティアって無償とは限らないのですよ。有償ボランティアもあります)もし質問者さんがボランティアをしている気がないならやはり搾取です。というわけで、決算書関係なく質問者さんの給料は安すぎるのだという事実をまず認めましょう。
さて次に、貴社は賃上げの余地があるのかどうかですが、おそらくあると考えられます。ここで少し数字に不可解なところがあり、売上高が5,000万円で、粗利益が約80%(4,000万円)で営業利益率が50%(2,500万円)ということは、人件費を含む販管費が1,500万円ということになってしまいます。しかし、年収が1人350万円とするなら、社会保険料等を合わせて1人約400万円のコスト、これが5人なら2,000万円は人件費だけでかかっていることになります。数字が合いません。人件費以外の設備費・広告費・消耗品費等がすべてゼロだとしても合わないのです。質問者さんよりさらに少ない年収で働いている人がいるか、あるいは決算書や従業員数が何らかの形で歪められている可能性はあります(どう歪められるのかは後述)。仮にこの決算報告書が本当だったとして、最終的な純利益が30%前後あるなら、株主すなわちオーナーの手元には1,500万円が残るはずなのです。これを従業員5人で分けたらどうなるか?1人300万円の賃上げが可能だとわかります。もちろん300万円上げてしまうと株主の利益がゼロになるでしょうからやらないと思いますが、200万円なら可能なわけですよ。株主の手元には500万円残ります。従業員の年収は500万円、経営者の利益も500万円。これでいいじゃないですかね。
ただ、大企業と異なり零細企業である点は考慮すべきではあります。規模が小さければ経営は不安定になりがちなので、従業員の給料とオーナー帰属の利益が同じだからといってフェアだという結論にはならないのです。ただし、オーナーの生活は表向きの純利益から想像することは難しいのもまた事実です。たとえば多くのオーナーが自分の生活のための電気代や水道代や外食代や賃料などを「事業のコスト」として計上しています。もちろん正確にはこれは脱税なのですが、横行しすぎていて税務署も摘発しきれていませんし、売上高5,000万円程度だと脱税額も知れているので税務署も後回しにしがちです。仮に摘発されてもペナルティの額が小さいのでオーナーはやりたい放題なのです。すなわち株主の利益として残っている1,500万円は生活費を除いたまるごと「お小遣い」のような形であることが多く、そう考えるとこの1,500万円が500万円になってもまだ年収500万円の従業員よりは豊かな暮らしができるのです。500万円は「お小遣い」ですからね。
従業員の数についても、実は雇用でなく請負契約などにすることで、人件費ではなく「仕入高」として計上することも可能になってしまいます。小規模であればこそ、厳しく監査されないからこそやりたい放題なんですよね。頂いた数字の中では粗利益80%を生むまでのコスト20%の中にすでに隠れた「人件費」があるかもしれないのです。これならば、上記の「人件費の計算が合わない」問題も納得がいきます。たとえば5名のうち2人は実は請負契約で3名だけが雇用されているのかもしれません。
このように、「利益」というものは外部からその実態が極めて見えにくくなってしまっています。何が経費なのかというのも提出するオーナーの解釈次第であるため、最終的に残る純利益の額さえオーナーの胸先三寸でどうにでもなります。だからこそ、重要なのは「キャッシュフロー計算書」を見ることです。現金を本当に毎期稼ぐことができているなら給料を支払う余力がありますし、もしも粉飾決算まがいの操作をしていて実はキャッシュがないのであれば実は「儲かっているように見えて黒字倒産寸前」なのかもしれません。この場合は残念ながら賃上げの余力は大きくないということになります。
とはいえ、その新しい経理さんにまたコッソリ見せてもらうのも心苦しいでしょうから、もっと簡単なのは「官報」を見ることです。貴社が株式会社なら上場していなくとも簡単な決算報告書は公告義務があるため、官報には必ず載っています。なので、オーナー社長が詳細なものを見せてくれなくても、「社長!決算公告見ました!純利益30%もあるなんてすごいです!ところで、インフレで私たちも生活が辛いので、賃上げお願いできないでしょうか」と言っても訝られないのですよ。なんたって堂々と利益が公告されているのですから。
で、社長は「あれは安定経営のために必要な利益なんだからお前たちの給料を払う余裕はない」云々と言ってくると思いますが、そんなことは従業員の立場からは知った話ではないので、断られたら転職するのみです。なのでまずは転職する先を用意しておく必要があります。今は多くの転職サイトがあり、年収300~600万円台の人をターゲットにしたものも多くありますから、とりあえず転職サイトに複数登録しましょう。ニッチであっても、全国どこかにニーズがあるなら昇給の転職は十分に可能です。まして年収300万円台とかちょっとあり得なさすぎるので、もう何が何でも昇給は1年以内に実現させましょう。
文面からするに質問者さんは圧倒的に知識がないことで搾取されている様子が分かるので、経営者と交渉することはあまり得策ではないと思います。まずは勇気を出して転職する道を選ぶのが正解だと思いますし、それでもそのオーナーさんがどうしても好きならせめて賃上げはしてもらいましょう。自分だけ上げてもらうのが嫌なら5人で共闘するのもアリofアリです。5人一緒に辞められるリスクを考えたらオーナーも賃上げせざるを得ないでしょうしね。悪いオーナーなら法人ごと潰すと思いますが、そういう時のためにやっぱり転職先は確保すべきです。
ご武運を祈ります。