ある患者さんが「下の歯の左右が親知らずに押されて痛い」と訴えていました。
私は、下の歯なので大腸経の関与を疑い、天枢や合谷など大腸経の経穴を確認しましたが、全く反応がありませんでした。
念のため胃経の経穴も調べましたが、そこにも反応は見られませんでした。
そこで奇経を確認すると、衝脈に反応が出ていました。左の血海に鍼をすると、歯の痛みが奥歯から下の前歯に移動しました。
再度腹診すると、今度は左右の天枢に強い圧痛が現れました。
すると右の合谷と左の太衝に反応が出たので、そこに鍼をしたところ、歯の痛みがすべて消え、さらに口内炎(三つ)の痛みも気にならなくなりました。
この経験から、衝脈が「十二正経の海」であるため、衝脈に異常があると十二経絡に気血が正しく流れず、結果として経絡診断がうまくいかないのではないか、と考えました。
最近このような症例が増えているため、気になり質問させていただきました。

かしま鍼灸治療院さん
なかなか興味深い症例ありがとうございます。臨床やってると面白い気づきがありますよね。
衝脉は子宮→会陰と始まりますから、インドではスワディスタナチャクラに相当する部分です。ここに意識を集中して瞑想状態に入ると、先天の気へのアクセスをも可能といわれている場ですね。ですから衝脉に問題があるということは先天の気がうまく作動しないとも考えられますので、おっしゃっていることは一理あるかと思います。
ただし人体は部分に分けられない総體として動いてますから、たとえ末節であっても問題が生じると、根本部分にも影響を与えるので、十二経脉経筋がうまく働かないために衝脉の動きも悪くなることもあります。経絡治療の影響が強い日本では本治法さえしっかり行っておけばあとは体が整えてくれるという考えが流布していますが、実際はそうともかぎりません。
あと歯の痛みは、書いておられるような場合であっても、歯科医師にきちんと直してもらうほうがいいことが多いので、その点は考慮に入れておく必要がありますね。除痛することによって本来の問題がマスクされ後で悪化していたことに気づくという問題です。