08月30日

質問者さん

偶然発見した神戸大学のFRにおいて、興津先生が『違法是正と判決効』について太田先生と木庭先生から厳しい批判を受けたとの記述に接しました。差し支えなければ、どのような批判であったのか、お教えいただけないでしょうか?

08月31日

Yukio Okitsu

Yukio Okitsuさん

よくご覧になっていますね(笑)。もう15年近くになりますので、記憶も薄れていますが、太田先生からは、訴訟法だけでなく実体法も見よという指摘を、木庭先生からは、その時にはほとんど理解できなかったのですが、その後、木庭顕『笑うケースメソッドⅡ現代日本公法の基礎を問う』(勁草書房、2017年)213頁注19でされたのと同内容の批判をいただいたと理解しています。私なりに咀嚼すると、行政処分が取り消されたことにより原状が回復する、その「原状」と、取り消された処分によってすでに形成されていた法状態との関係を、訴訟手続の問題としてではなく、実体法あるいは占有の次元で分析すべきであった、という趣旨だと今では理解しています。 ご指摘自体はそのとおりであり、院生時代の私がそういう視点をもちえていたならば、特にフランス法の部分は、かなり異なる形になっていただろうと思います。というか、フランス法の部分だけで、独立した博士論文になっていたと思います。とはいえしかし、このテーマを選んで、当時の先行研究の状況で(小早川「取消判決の拘束力」はわずかにそういう視点を示唆していたと思いますが)、最初の論文または著書で、独力でその視点にたどり着いていたならば、それはレジェンドレベルの所業だったろうと思います。また、視点を獲得できたとしても、論文や本として完成することができたかは別の問題であり、語弊をおそれずにいえば、小早川論文も当時のフランスの判例の状況をまとめただけで終わっていますし、太田先生も、別の形で同じテーマに取り組んでいるといえるわけですが、完結はできていないわけです。 さらにいうと、当時私が学んでいたフランスの行政法学では、少なくとも私が読みとりえた限りでは、そういう視点は希薄であり、行政裁判官の権限あるいは任務の問題として議論されてきました(拙著の先行研究のひとつである小早川「フランス行政訴訟における”指令“について」現代ヨーロッパ法の展望も、そうしたフランス行政法学の動向に乗っている。)。そちらのほうの水脈をさかのぼってまとめたのが、拙稿「越権訴訟の起源をめぐって」日仏法学25号だったわけですが、この論文は現代までつながりませんでしたので、結論から見るとこちらの枝は「はずれ」だったわけです(論文自体は自分で気に入っているのですが。)。原状回復のほうの枝を選んでいたら、どうなっていただろうかと考えることもありますが、私の力量からすると空中分解していた可能性が高いので、2010年の時点で『違法是正と判決効』をあの形でまとめられたのは、批判を受けてもなお、自分の研究史としては正解だったと思っています。

Yukio Okitsuさんに 質問してみましょう!

Yukio Okitsu

Yukio Okitsu

https://www.saiensu.co.jp/search/?isbn=978-4-88384-375-6&y=2023

法学研究者志望者からの質問、興津征雄『行政法I 行政法総論』新世社(2023年)の内容に関する質問(なるべくページ数等を特定してください)に積極的に回答します。そのほかの質問はお答えできる範囲でゆるく答えます。

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08月31日

続き質問

下世話な質問ですが、こういう批判を受けた際、内心ではどのように感じられますか。イラっとするのでしょうか、あるいは逆に感心したりされるのでしょうか。

Yukio Okitsuさんが

最近答えた質問

7時間前

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平石さん、自身が選手として大成しなかった自覚があるから、コーチ監督時代に引き出しを増やすべく、かなり勉強されたらしいですね。それが解説に生きていますね。そして、OBでもないのに、けっこうヤクルトを褒めてくれるのもありがたい。

7時間前

大学卒業時に法科大学院が設立された影響で研究者養成の大学院が母校で募集をしておらず就職して20年が経ちます。 その間も自身でできる限り時間を作り、法学の書籍や論文を読み続けてはいるのですが、40歳を超え再度指導を受け論文を執筆したいという願望を抱き続けています。 その場合に一概には言えないと思うのですが、研究者として新たに大学に就職をするのは難しい(40歳を超えて大学院に入っても就職は難しいと勝手に思っています。)、そういう意味では生涯学習の一環のようになると思うのですが、そのような場合でも大学院で専門的な指導は忌避されないものでしょうか。 専攻は憲法でドイツ連邦憲法裁判所に関心があります(詳細は長くなりますので具体性に欠けますが)。

7時間前

法学者の研究活動というのは具体的に普段どのようなことをなさっているのでしょうか。個人的なイメージだと、自室で論文や専門書や判例などを熟読してうんうん唸ったりメモをとりながら論文を書く、というものなのですが、、