雪舟筆四季山水図巻模本（狩野古信が山水図巻を模写したもの）についてお聞きしたいです。 ①原本と比べ、タッチは荒っぽく配置も粗雑で、散漫に見えました。 模写の質はさておき、原本の残っている作品の、何百年も下った模本が国宝の指定を受けるほど評価されれているのは何故なのでしょうか？ 模写の経緯として、当代将軍のたっての願いで…といったエピソードが若干の付加価値にはなっているのかもしれませんが、将軍が関わった絵画制作や有名作品の模写など他にもあり、それらはここまで評価を受けていないと思うのですが…。 ②当時の模写というのはどのように行われていたのでしょうか？ 原本と比べてみると完全に別物であり、厳密に複製するというより、模写画家の個性の介在が許されていたようにも思うのですが、この作品の模写経緯を考えると、依頼としては正確なコピーを求められていたのでは、という気もします。 当時の模写における価値観を、模写手法と合わせてご教授いただけないでしょうか。

①国宝にも重要文化財にも指定されていないはずです ② 当時、絵の主な発注者である将軍や大名は、先例を何よりも重んじていたため、まず先例に準じた絵を描くことが求められました。贈答用の絵画は相手の格によって画題や、素材の種類、量までも決められていたので、とにかく先例を知ることが全て。オリジナリティなど求められていません。 そのために正確なコピーを描くというのはとても重要なことでした。そのコピーさえあれば、雪舟風に描いてよと注文があればそれを踏まえて応えることが可能になります。要はビジネスのためです。 模写は実作を隣に置いて、そのまま写すだけです。直接その上に紙を置くことはできません。狩野古信は木挽町狩野家という最高権威のところだったので、本物をたくさん実見して写せたと思います。弟子たちは古信が写したものをさらに写し、その下請けはその写したものをさらに写して、街の一般絵師はその写しの写しをさらに写して人に教えたりしていました。曾我蕭白ら京都の個性的な絵師たちは、この制作態度を心の底から馬鹿にしていますが、これが江戸時代の絵のメインストリームです。