お世話になります。学生です。現在、卒業論文で日本企業のESG performanceの調査に取り組もうと考えており、企業のESGやIR担当に自社のESG戦略やESG評価方法の選定理由やそのプロコンをインタビューしたいと考えています。財務情報やSustainability Reportを入手しやすい上場企業を対象にしようと考えている一方、大手企業の担当者が学生のインタビューに対応してくれる可能性は低いのではないかと思い卒論のテーマ設定に迷っております。企業へのアプローチ方法へのアドバイス、もしくは企業側の人間としての経験から現実的には厳しいだろう、等のご意見を頂ければありがたく思っております。以前中田様が学生からの問い合わせについて何かご意見を仰っていたような記憶があり質問させて頂いた次第です。ご多忙の中恐れ入りますがご回答頂ければありがたく思っております。

中田:‖さん
学習・探求意欲が高くて素晴らしいですね。
まず、学生に対応してくれる企業は確実に存在します。むしろESG関連の取り組みに熱心な企業ほど学生との対話を望んでいる場合が多いと考えていただいて構いません。ユーグレナに至っては15歳の「CFO(Chief Future Officer:最高未来責任者)」を据えているほどです。丸井のように統合報告書やサステナビリティ・レポートなどに学生との対談を載せている企業も少なからず存在します。なぜESG/サステナビリティに注力する企業が若者好きかというと、何のために環境/社会/企業活動をサステナブルにする必要があるのかと考えれば必然的に次の世代のためという話になってくるからです。次の世代が何を考えているのかということを把握したい(少なくとも次の世代と対話しているのだという姿勢を見せたい)というインセンティブが強く働いています。というわけで、ESG的に評判が高い会社のHPを見てみて、「学生」「次世代」「若者」などのキーワードで検索して既に学生との接点を持っていそうな企業であれば高確率で相手にしてくれます。むしろ「学生と対話したという実績としてHPに掲載させてほしい」と逆スカウトが来る可能性さえあります。
留意点は2つあります。
まず、学生を相手にするような意識の高い企業は、自社HPや各種メディア媒体で無数にその手の質問に答えてきており、質問者さんが知りたいような内容の多くは既に公開されている可能性が高いです。実際にインタビューを行う際には、その企業のHPや各種書籍・雑誌(大学や一般の図書館でほとんど入手可能です)を読んで、インタビューするまでもなく把握できることは事前に調べておきましょう。それを踏まえた上でインタビューをすれば、文字にはしにくかったことを回答してくれる可能性が高まり、それだけでもインタビューの価値は高まるというものです。自社のことを良く調べてくれているとわかれば企業側も乗り気になってペラペラいろんなことを喋ってくれること請け合いです(私のようなオッサン相手でもそうなので学生相手なら猶更です)。メディアにはポジティブなことしか書けない雰囲気があるので、苦労話などを聞くといつまでも愚痴混じりの逸話を話してくれるに違いありません。
もう一つは卒論のテーマや目的、論理展開の構成についてです。これは担当教官と予め相談すべきことであり、学部の論文であれば小学生の感想文をアップグレードした程度のものでも難なく卒業はできるのですが、とはいえ後々読み返してみて納得できるものに仕上げたいのであれば、その企業にインタビューして何を得たいのか、何を論じたいのか、論じたい結論はそのインタビューで言えるのかという点は考えても良いでしょう。即ち、学生を相手にしてくれる企業はそれだけで強いバイアスがかかっているので、「ESGパフォーマンス」という壮大なテーマを論ずるにはほとんどの場合においてインタビューが不足するからです。これはインタビューに意味がないと言っているわけではまったくなく、むしろ私はそのインタビューを読んでみたいくらいなのですけれども、「そのインタビューで何が言えるのか」というテーマ設定は身の丈に合ったものにした方が論文としては纏まりやすいと思います。「ESGパフォーマンス」は世界中の学者や企業が多くの金と時間を突っ込んで調べているものなので、それに伍するような論文を学生が書くことは難しいですし、期待もされていません。5社程度の企業にインタビューしてそこから得られたことをまとめるだけでもESG関連雑誌に載せていいレベルになりますから(本当です)、まずはESGの意識が高い企業の統合報告書やサステナビリティレポートを読んでみて、「この会社にインタビューしてこんなことを聞いてみたい」という質問リストを100個くらい並べてみてはいかがでしょうか。論じたいテーマが帰納的に見つかってくるかもしれませんよ。
健闘を祈ります。