とある日系金融機関の本部で働いています。
同じ部にA課とB課があり、案件次第ではチームを組んで動くことがあるものの、普段は異なる案件を手掛けていることが多いです。
私はA課の業務もB課の業務にも精通しており、兼務という立場で、A課に所属しつつB課の業務に軸足を起きながら仕事しているという状況です。
個人的に兼務という立場は中途半端でやりにくいと感じているのですが、上司からは唯一の兼務者として、部門間の連携を強化するのがあなたの役割だと言われています。(それは管理職の仕事じゃないかとは思うものの、私が今後マネージャーになるための練習らしいです)
営業部門と生産部門のような業務に連続性のある部門間連携は重要なことだと思うものの、今回のケースのように、普段は別の案件を手がけているチームの連携の強化を行うことに違和感を感じています。(前述のように、チームを組む場合においては特に連携できていないことはありません)
なんとなく、上司としてはグループ間の心理的な壁がある(お互い普段は何をやってるか詳しくわからない)のを取り払ってほしいと言いたいようなのですが、そもそも異なる仕事をしているので一定の心理的壁があるのは当たり前で、そこに労力をかける必要性を感じていないのですが、中田さんはどう思われますか。
もし連携強化に関する有効な方法や、参考書籍等もあれば教えていただきたいです。
お疲れ様です。寡聞にして「複数の部門の連携強化」のための参考書籍やサイト等は存じないので、私自身が兼務してきた経験と、一般に縦割り文化が弊害と言われる理由を元にお答えします。
結論としては、「最小限の労力で両方の課の情報交換だけを担う」ことをお勧めします。理由は以下の3つです。
1. まず、「異なるチームや部門間に横ぐしを刺して調整を行う」ことはめちゃくちゃ大変です。心折れます。やってられません。仰っているように「そもそも異なる仕事をしているのて一定の心理的壁がある」のであり、そこに特段の権限がない人が横ぐしを刺そうとされても当事者たちにとっては余計な仕事が増えるだけですので、調整役の人が疎まれてしまうことさえあります。給料が増えるわけでもない上に残業と心労だけ増えるこの「縦割りの壁を壊す」という役割は基本的に割に合わないのです。しかし会社としても質問者さんに潰れてほしいわけでも辞めてほしいわけでもないでしょう。質問者さんがサステナブルに働くためには、まずは「やってらるかボケェ!」と思わなくて済む方法を模索する必要があります。
2. 情報の交換を行うだけでも非常に高い価値があります。縦割り文化では基本的に情報の交換は行われません。これは個人の利己的な理由のみならず、会社から求められている行動原理でもあります。情報管理のためには「その情報を知る必要のない同僚に顧客情報を共有してはならない」と厳しく社員を教育している会社は多いでしょう。強弱の差はあれども質問者さんの会社でもそう指導されているはずです。つまり、社員は意地悪で情報を共有しないわけではなく、正しく会社のコンプライアンス原則に則って極力他のチームとは情報を共有していないのです。
ここに「兼務者」の存在意義があります。兼務者はどちらのチームにも所属しているので、正当な権利としてどちらのチームの情報を得ることができます。別の言い方をすれば、兼務者以外の人は別のチームの情報を得る権限を基本的には持ちません。両チームの情報を堂々と日常的に交換できるのはこの兼務者だけなのです。「自分のチーム(A)の情報を自分のチーム(B)に共有しているだけ」だからです。
そして、チームが違えば驚くほど保有している情報が異なります。私もECMとDCMを兼務した時に驚いたのですが、言葉さえよくわからないんですよね。同じ言葉を使っているように見えて、例えば同じ「ローンチ」という言葉ひとつとってもECMとDCMでその捉え方が違っています。似ているようで実は異なることを行っている両チームの情報が交換されることで、(1)機会と(2)リスク抑制の両方の効果があります。「案件ベースではA課もB課も混ざってチームアップすることもある」とのことですが、そもそもその案件を立ち上げるためのアイディアを生むために両課が情報交換されていた方がよいことが多々あります。Sansanじゃないですが、別チームのネットワークやノウハウさえあれば案件獲得に有利だったという場面はそこかしこにあります。「A課にもB課にも精通している」と言える質問者さんは非常に強くて、そんな人はほとんど社内にいないはずです。だからこそ抜擢されたのでしょう。これが機会の側面です。
リスク抑制の観点では、私がTLでも言及した『サイロ・エフェクト』が参考図書としてお勧めです。縦割りの企業文化がいかに悲惨な結果を招くのかというケーススタディーがいくつも載っています。
https://twitter.com/paddy_joy/status/1610573689703272455
その例の一つ、UBSでは、サブプライム危機の際に、ロンドンとNYのチームが全く逆のポジションを取っていたことが解説されています。ロンドンチームは「サブプライムローンはショートしているので、市況が悪くなればなるほど儲かるから問題なし」と考えていたのですが、NYのチームは桁違いにサブプライムローンをロングしていたせいで、会社全体としては爆死してしまいました。ロンドンとNYのチームでせめて「互いに全く逆のポジションを取っている」情報が共有されていれば、何かがおかしいと気づけたでしょう。しかし両チームはそんなことをするインセンティブがゼロでした。仮に兼務者がいれば容易に気づけたはずのクリティカルな矛盾だったのです。これが、情報の共有によるリスク抑制という側面です。
というわけで、会社として「A課とB課は情報を共有するリスクよりも機会の方が大きい」と判断して質問者さんの兼務が決定されたのですから、堂々と情報を交換するだけで極めて存在意義が大きいと自負してよいと思います。
3. 最後に、1.と矛盾するようですが、うまくやればおいしいポジションを取ることが可能です。A課の同僚には「B課の仕事が忙しいわ~」という雰囲気を醸しつつ、B課の同僚には「A課の仕事が忙しいわ~」という雰囲気を醸して、しかし情報交換だけはしっかり行っていれば、どちらにも存在感を見せつつ仕事量を減らせたりします。これはA課とB課のチームメイト同士がほとんど交流がない場合に有効なので、案件ベースでは交流がある今回のケースだと使いにくいかもしれませんが、他方で「グループ間の心理的な壁がある」状態なのであれば有効性は一定程度あると見ています。質問者さんがやりたいことをやりつつ、かつ上司の期待に応えるべく情報交換という形で貢献し、そして両課からは「質問者さんはいつも忙しそうだな~」と思ってもらえるというポジションを狙ってみてはいかがでしょうか。若干セコいのは否めませんが、それくらい前向きに捉えないとチーム間・部門間の串刺しを刺す系の業務はほんとやってられないです。
健闘を祈ります。