ECMO,IABPの管理のかの字もわかりません、、、 初期設定やヘパリン指示などどうされていますか?

メカ医さん
ご質問ありがとうございます。
ECMO,IABP,更には今ではImpellaといったMCSは薬物治療と違ってやる or やらない の所謂1 or 0では無いところがエビデンスも出にくい原因と言われています。(実際ECMO,IABPに関しては大規模RCTでのエビデンスは2025年現在もありません)
そのためMCSの管理は非常に重要となるのですが、今回は①初期設定、②抗凝固に絞ってお答えさせていただきます。
要点としてはIABPの方が選択するものは少ないですが、補助量が限られるため調整が重要となり、IABPの限界を見極めてupgradeを考える必要があります。一方でECMOはカニューレ選択が非常に重要ですが、一度しっかりと構成されてしまえば補助量の調整はダイアルひとつで簡単なこと、補助量としては経皮デバイスでは最大であることが特徴です。(かなり極論です)
ではちょっと長くなりますがそれぞれの点の詳細について述べます。
①-1 IABPの初期設定
IABPは圧補助による補助デバイスであるため,拍出量の補助量は自己心拍出量によって規定されます(自己拍出力が保たれている方が補助量が多くなります)。バルーンサイズは身長で選ぶことが多いですが、現在はショートバルーンもあり当たり前かもしれませんがバルーンサイズが大きいほど補助量が増えるので可能な限り大きいバルーンを使用しています。(長いバルーンではバルーンが腎動脈にかからないように注意します。)特にバルーン拡張および収縮のタイミングが肝要であり,そのタイミングを決定するトリガーとして心電図もしくは圧が用いられています。
駆動したては2:1で駆動することで①systolic unloading(収縮期のバルーン収縮→収縮期血圧低下→左室unloading)と②diastolic augmentation(拡張期のバルーン拡張→拡張期(平均)血圧の上昇→組織(心臓含む)灌流の増加)が最大化されるように収縮と拡張のタイミングを決定します(2:1にした方がどれくらい変化したのか見やすいためです)。過去には駆動したての時はヘリウムガスが十分に充填されずに拡張不十分となることがよくあったため2:1でバルーンを拡張させる目的もありました(今はプライミング性能が上がったのでほぼ無いそうです)。その後は基本的には1:1で補助量が最大化され、2:1以下だと補助力は半分以下と言われていますのでバルーンの拡張およびタイミングの調整が終わったら速やかに1:1に切り替えます。
現在流通している多くのコンソールはタイミング・トリガー共に自動で切り替えるオートパイロットモードが搭載されていますが,異常な補助波形となっていた場合にはマニュアルでタイミングを調整する必要があります。(実際の圧波形は他の教科書や資料をご参照下さい。)この中でも特に「バルーン拡張が早い」場合は収縮期にバルーンが拡張するためオーグメンテーション圧がより高くなり,モニターの数字上は一見すると良好な補助をしているように見えてしまいます。しかし実際には左室後負荷を高め,心筋酸素需要を増やし,20%程度の1回拍出量を減じるため最も危険なエラーと考えられ,早急な対処が必要な状態なのでモニター上の血圧の値ではなくIABPコンソールの波形を確認することが大切です。
また、不整脈(頻度的にはAf)の際の追従性が問題となるため、IABPを入れて安心ではなく、尿量や乳酸値、PACが入っていればSvO2等DO2(供給酸素量)が不足していて設定変更でも保てないと判断する場合には経過観察にせずにMCSをupgrade、時には転院を考えなければいけません。経験上一晩程度であれば昇圧剤と併用すれば血圧維持して乗り切れることも多いですが、その後から立て直す方が大変で結局亡くなってしまうケースが増えてしまうためIABPはupgrade or Weaningのタイミングの見極めは非常に大切なMCSと言えます。
①−2 V-A ECMOの初期設定
V-A ECMOは流量補助デバイスであり,コンソールに表示されるECMO Flow(L/min)が補助量そのものになるためIABPより分かりやすいです。補助量は大体BSAから割り出した必要酸素量を運べる流量を推定して設定しますがほぼカニューレ特性で決まってしまうためカニューレ選択が重要です。2023年に本邦のガイドラインにも記載された,米国心血管インターベンション学会(SCAI)shock分類に準じて私はカニューレ選択を考えることが多いです。SCAI shock stage Bに分類される「PCI中の一時的な血圧低下・不整脈時の補助として用いる場合」(2L/min程度)であれば15Fr送血管,19.5Fr脱血管でも可能ですが,SCAI shock stage C以上の「ある程度体循環蘇生を必要とする場合(3 L/min程度)が必要な場合」には16.5Fr送血管,21Fr脱血管は最低でも必要と考えられるため,この組み合わせを当院の緊急挿入時のデフォルトとしています。さらに,院外心停止に対するV-A ECMOを用いた心肺蘇生(Extracorporeal cardiopulmonary resuscitation:ECPR)等SCAI shock stage Eに対する安定した流量補助および蘇生のためには送血不良よりも脱血不良が先に問題となることが多いため,24Frの側孔が多いタイプの他社製の脱血管を回路切断・再接続して用いています。仮に21Fr経総大腿静脈経由の脱血管を挿入後に脱血不良となってしまった場合には,内頚静脈から追加の23Fr脱血カニューレおよび回路を追加することで”VV-A” ECMOへのコンバージョンを行うこともあります。
いずれにせよIABPと異なりECMOは挿入する時間的余裕が少ない中で更にカニューレ選択がより重要となります。(更に細かい流量の目標値などは普段心臓血管外科のポンプを回しているMEさんが詳しいので仲良くなって教えてもらうと良いです。)
ECMOの補助は大腿動脈からの逆行性送血によりなされるため,自己肺を通り左室から拍出される血液と混ざる場所(mixing zone)の管理が重要となります。特に心不全や肺炎等による自己肺の酸素化能低下を合併している場合には,mixing zoneより中枢側で低酸素血が灌流されてしまうdifferential hypoxiaの状態に注意を要します。自己心拍出の改善に伴いmixing zoneが腕頭動脈以遠となった場合には,右総頚動脈に低酸素血が流入する可能性があることから,同じ腕頭動脈より起始する右上肢の動脈に動脈ラインを挿入して酸素化をモニタリングすることが一般的です。この際の注意点としては,右上肢でのモニタリングは脳への酸素供給を担保はしていますが、より近位の冠動脈への酸素供給は分からない点が挙げられます。そのため,AMI後等心原性ショック・心停止でのECMO管理では人工呼吸器による呼吸補助を極端に減少させたlung rest設定を行わず,(特に不整脈の頻発や心電図でST-T変化を認める場合は)人工呼吸器の設定強化やiNOの併用も検討します。
前述の目標とする流量に合わせたカニューレを選択し,回転数を増加させても目標の流量が得られない場合があります。このときにその原因がどこにあるのかを鑑別するために回路内圧測定が重要であり,合併症のモニタリングを兼ねるためモニタリングできる環境であればモニターします。
また,V-A ECMOには呼吸補助の機能があり,主に人工肺へのガスの吹き付けにより行われます。このガスは酸素と空気の配管からブレンダーを経由して投与しています。補助開始時はFIO2 100%,血液流量とガス流量を1対1で開始することが多いですが,管理開始後は人工肺膜後の血液ガスを適宜採取して人工肺後のpO2が300mmHg以下程度となるように適宜FIO2を調整します。ガス流量に関しては流量を増やすほどpCO2が低下するため,蘇生期に低pCO2による脳血管攣縮を誘発するリスクからも補助開始後の過剰なガス流量とならないように注意が必要です。また,移動中の酸素チューブの脱落や移動後の配管への切り替え忘れ等は致命的となるため,移動の前後では特に送血回路の血液が鮮赤色であることを確認することやチェックリストの用意等を施設で準備することが大切です。
②MCS補助中の抗凝固
当院では原則として体内補助(IABPやImpella)ではACT160-180sec、体外循環(V-A ECMOやCRRT)では180-220secを目標としてそれぞれヘパリン持続注のスケールを行っています。ポイントとしては2つのスケールを定型文で電子カルテ内に指示が入ることで勘違いや投与量の違いによる事故を予防していますが施設で統一した方が事故が少なくなると思うので確認してみてください。
またMCS管理中はこれら抗凝固薬に加えてDAPT投与も併用していることにより出血合併症のハイリスクと言えます。IABPに関しては抗凝固療法を用いたことで出血イベントは増加しますが,虚血イベントは変わりなかったという報告があり、慣習的に1対1作動中は無凝固による管理も可能とされています。それ以下のサポートでは血栓症リスクのため抗凝固薬を投与することが多いとされています。また,V-A ECMOについても短期的であれば抗凝固療法を行わない管理が可能という報告もあるため、本人の出血リスクと塞栓リスクを勘案して適応を考える必要があると考えられますが無凝固の期間は最短にする必要があります。
最初は中々ポイントが掴めない中治療がどんどん進んでいってしまうので理解が追いつくのが大変だと思いますが、他の先生の症例などでも流れを見つつ経験を増やすこと、MEさんとよく会話をすることが理解への早道なのではないかと思います。頑張ってください!!