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02月15日

質問者さん

いつも勉強になってます。重症心不全症例の栄養療法の考え方について教えてください。カテコラミンを使用してる時は経管栄養が使いづらい気がして、中心静脈栄養を行っていますがかえって前負荷を増やしてしまい、悪さをしている気がします。少ない量から経管栄養を始めた方がよいのでしょうか?

03月02日

メカ医

メカ医さん

ご質問ありがとうございます 重症心不全の栄養管理は非心臓重症患者と少し管理の観点が違うため①水分量(前負荷)、②カテコラミン使用下での経腸栄養、③少量開始の意義の観点から順番に述べさせていただきます。 ①水分量(前負荷) 敗血症や外傷などの非心臓による重症患者への栄養管理とも違う点として水分管理がよりdryの方向に持っていかなければならないこともその理由と思います。 以下では下記の略語を使用してお話ししていきます。 EN: Enteral nutrition = 経腸栄養 PN: Parenteral nutrition = 非経口≒経静脈栄養 本当は「Par-enteral」は皮下注や消化管を使用しない栄養全体を指すのでしょうが一般的には静脈投与を指し、下記の二つに分類されます。 TPN: total parenteral nutrition = 完全静脈栄養≒中心静脈栄養 PPN: Peripheral parenteral nutrition = 末梢静脈栄養 (超余談ですが、TPNが「total」なのは1968年に発表された時点では腸管を使用しないで生命活動や成長に必要な量の5大栄養素(炭水化物、蛋白、アミノ酸、脂質、ミネラル、ビタミン)を全てを静脈から供給できることを可能にしたことから命名され、当時はcomplete parental nutritonと呼ばれることもあったようです。その後にPPNが開発されたため、現在では対義語でよく使用されます。) さて、ご質問にありましたようにENとTPNでは水分量に大きな違いがあります。 具体的な話にしてみましょう。60kgの患者さんに必要なエネルギー量は、 25-30kcal/kg/日→1500-1800kcal これをTPNで賄おうとした場合にはエルネオパ2号(2000ml)とイントラリポス20%(100ml)を使用して2100ml/日の投与量でエネルギーが1840kcalとなりますが、ENとしてペプタメンAFであれば1200mlで1800kcalが達成されるため水分量は約半分で済みます。 また、急性期にはたんぱく質が必要なのでそちらの目標値は 1.2-2.0g/kg/日→72-120g 上記のTPN 2100mlでは60gしかとれず、EN 1200mlでは114gも摂取することが可能になります。 これはTPNのエネルギー構成がほぼ糖質に頼ることになってしまい、イントラリポスを適切に併用して脂質からエネルギーをとるとしてもタンパク質が不足してしまうことになります。勿論アミノ酸製剤を追加すればタンパク質の摂取量を増やすことは可能ですが、より水分量が増えてしまうことからも重症心不全の栄養投与においてはTPNは不向きだと個人的には考えています。 ②カテコラミン使用下での経腸栄養 最近のレビューでは腸管は全stress volumeの25-30%が灌流していますが、ショックなどの状態の際に真っ先に血管が収縮して流量が落ちることでbufferの働きをしているそうです。そのためそこに血管収縮薬を投与することで血流が落ち、そこに栄養吸収の仕事をさせることで酸素需要供給のバランスが崩れ、NOMI発生につながることは事実だと思います。一方でそれは増悪期の話であり、重症患者の栄養管理のガイドラインでもカテコラミン使用中がダメなのではなく、増量が必要な不安定な時期を避ける記載はありますがその必要量が増加しない時期に達した場合には後述する少量からなら開始を考慮しても良いとされていますし、自分もしています。要は鎮静鎮痛や病態による血管拡張に対するカウンターとして正常付近に戻すのと、ただでさえCOがない中の代償として無理に血管を締めている際の血管収縮薬では役割が違うということになります。 これと関連してCOを増加するための強心薬やECMO、ImpellaといったMCSも同様で酸素供給(DO2)が担保され、酸素需要と供給のバランスが一旦は保たたと考えられる状況であれば少量からのEN開始は同様に妥当と考えられます。 ③少量開始の意義 こちらは重症患者の栄養ガイドラインでも 「重傷病態に対する治療を開始した後、可及的に24時間以内、遅くとも48時間以内に経腸栄養を開始することを推奨する」 「発症前栄養障害無し→初期1週間で消費エネルギーに見合うエネルギー投与量を目指さないことを弱く推奨する。至適投与量に関しては25%程度、500kcal/日程度の研究があるが推奨できる結論は出ていない」 と記載されていることから少量から早期に開始するメリットが強調されています。 これは2つの意味があって、一つ目は超急性期には同化よりも異化が更新し元々の栄養障害がなければ内因性のエネルギーが使用されるため多くの栄養量投与は血糖値の不安定性を招き免疫活性を落とすなどの不利益が増えることから、上記の腸管の仕事量の増加から酸素消費が増える観点からも少量投与が推奨されています。 特にENであれば胃の蠕動も低下しており食物を溜めて置けず、嘔吐のリスクも高まっているため体外で胃の役割を担うために持続投与が推奨されており、実際に当院でもEN開始時は10ml/hr→耐性があれば10ml/hrずつ増量としています。 もう一つがbacterial translocationという考え方で、ある意味腸管内は体内で一番不潔(=細菌がいっぱい)なのを腸管粘膜1層で防御している組織になります。その部分の虚血が起きることで細菌が体内、血管内に移行することをbacterial translocationと呼びますが、適度な栄養素は腸内細菌叢を維持し、それによるエネルギー供給も報告されていることなどからも使用しないことによる害が時間経過とともに大きくなり、再開時の有害事象増加につながることから少量でも早期に開始することが推奨されています。 昔はGFOから開始していましたが現在はペプタメンAFなどの高タンパク質な成分栄養(分解が楽)剤がでてきたため、ある程度まだ腸管粘膜が保たれている急性期ではGFOを挟まずにペプタメンAF持続投与から開始にしています。(完全私見ですがGFOは血液疾患や消化管術後で腸管が使用できない期間が長かった患者さんの再開時にはよいと考えています。) まとめると ①水分制限の観点からも重症心不全ではよりPNよりもENが推奨 ②カテコラミン使用中でも必要量が増えていない&酸素需要と供給バランスが保たれたと判断できれば投与開始 ③開始するなら成分栄養剤を持続投与で少量から開始 が大切かなと思います。またぜひご質問お待ちしています!

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メカ医

メカ医

総合内科専門医|循環器専門医|集中治療科専門医|心エコー図専門医| ECMO,Impella,ECPELLA,POCUS,PCI|メカ(補助循環&エコー)好き医 |循環器集中治療Critical Care Caidiology修行中| 非医局| 博士(医学) | My posts are my own

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メカ医さんが

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04月08日

貴重な質問の場を設けていただきありがとうございます。 emPCI時のIABPとImpellaの使い分けについて、私自身はCSで灌流不全が全面に出ている症例ではSCAI分類を参考にしてはいるもののどのデバイスを使用、組み合わせるかは何となくの肌感で決めてしまっています。先生の選択にあたっての具体的な基準や重視している点があれば教えていただきたいです。 とくに、まだ発症が間もなくCSが全面に出ていない症例においてはImpellaを入れるべきか、IABPで手軽に冠血流サポートに行くべきか非常に迷います。上記場面においても、選択に関してご教示いただけますと幸いです。何卒よろしくお願いいたします。

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03月10日

PCPSのフローが十分出ており、かつLacの上昇等なく臓器虚血がない状態が維持できる時、目標血圧はどのように考えますか? そういう時往々にして平均血圧が60ないとかを理由に利尿や除水が嫌厭されるばかりか人によっては軽くNorで末梢を締めるかとおもいます。 その辺の圧目標をどう考えるかご意見下さい。

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03月02日

いつも勉強になってます。重症心不全症例の栄養療法の考え方について教えてください。カテコラミンを使用してる時は経管栄養が使いづらい気がして、中心静脈栄養を行っていますがかえって前負荷を増やしてしまい、悪さをしている気がします。少ない量から経管栄養を始めた方がよいのでしょうか?

メカ医さんが

最近答えた質問

06月22日

いつも勉強させていただいています。ありがとうございます。低心機能の方で、AF頻脈によるLOSが疑わしいとき、IABPは心電図トリガーより圧トリガーが好ましいのでしょうか?また、DCでも洞調律が維持できない場合、アミオダロンも陰性変力作用が懸念されるため、ジゴキシンをメインに使っていくのがベストなのでしょうか?よろしければお考えをお聞かせ願えると嬉しいです。

05月26日

ECMO, impella管理中の方で、エコー指標で見るべきポイントを教えていただけないでしょうか?

05月25日

いつも勉強させていただいております。 駆け出しの集中治療医です。 2点ご質問させていただきたいです。 ①エクペラのECMO,IMPELLAのバランスについて メカ医さんは上記割合をどのように決められているのでしょうか? 過去のツイートを拝見すると、DO2を稼ぎたい時やnorth south syndromeが懸念される場合はECMOメインなのかと解釈しておりましたが他にもこういったシチュエーションではIMPELLAメイン等ありましたらご教授頂きたいです。 ②右室梗塞合併しIMPELLAが回らない場合の対応。以前に右室梗塞合併しIMPELLAがp2でも回らない症例を経験したことがあります。こう言った場合、補液や強心薬等通常の右室梗塞の対応になるのでしょうか? ②についてもエクペラでの設定になります。 よろしくお願い致します。