いつも勉強させていただいております。
駆け出しの集中治療医です。
2点ご質問させていただきたいです。
①エクペラのECMO,IMPELLAのバランスについて
メカ医さんは上記割合をどのように決められているのでしょうか?
過去のツイートを拝見すると、DO2を稼ぎたい時やnorth south syndromeが懸念される場合はECMOメインなのかと解釈しておりましたが他にもこういったシチュエーションではIMPELLAメイン等ありましたらご教授頂きたいです。
②右室梗塞合併しIMPELLAが回らない場合の対応。以前に右室梗塞合併しIMPELLAがp2でも回らない症例を経験したことがあります。こう言った場合、補液や強心薬等通常の右室梗塞の対応になるのでしょうか?
②についてもエクペラでの設定になります。
よろしくお願い致します。

メカ医さん
ご質問ありがとうございます。
①ECPELLA管理におけるECMOとImpellaのバランスをどう決めているか
②右室梗塞合併時のECPELLA管理の対応
について回答させていただきます。
①については、普段のポストもご覧頂きありがとうございます。
既に十分ご理解いただいていると存じますがECMO優位の管理にする主な2つのポイントが下記になります。
1️⃣DO2を稼ぐためにOutputが自己肺循環+Impellaでは不足する時
→ 自分はまず現在の病態にDO2(CO×Contain O2)がどれくらいかを見積もることから始めます。
COは大体BSA×2.2程度と見積もっており170cm70kgの成人男性でBSA≒1.8のため大体4L/min程度、160cm60kgの成人女性でBSA≒1.6のため大体3.5L/minが必要と見積もります。勿論心肺停止蘇生後などは酸素消費量が上がっていたり、出血や炎症による貧血の進行などを勘案すると可能な限りのMCS flowを出してLactate低下やSvO2上昇などの指標が改善する量で維持していきます。
蘇生後等で確実に必要だろうと踏んで最初からECMO優位ECPELLAで開始することもありますが、そうでなくてもPACで計測したCOが不足or必要量に増加しない時はECMO循環でOutputを確保します。
2️⃣自己肺機能が悪くNorth-south syndromeが懸念される時
→この時のpointはECMO flowを上げることで脳血流はECMO側のPO2でカバーしていることが右手のABGで確認できていても冠動脈には自己肺からの低酸素血が流れてしまい、虚血を生じていたり、ECMO flowによる後負荷により肺鬱血が増悪したりすることで延々とECMO flowが下げられない事態になりかねません。そうならならないようにECMO優位とした場合には必要に応じた除水もしくは血管拡張薬によりstressed blood volumeを低下させ、右室前負荷を減少させることでLVEDPとLAP、RAPを下げ、心保護と肺鬱血改善、体鬱血(胸水含む)改善を両立させる必要があります。
主には上記2つの適応ですが下記二つも考慮することがあります。
3️⃣肺高血圧や右室梗塞合併で右室前負荷・後負荷をECMOで減らして右心機能改善を待ちたいとき
4️⃣劇症型心筋炎で脈拍数が低下してしまい、t-PMを挿入していても閾値が増悪してしまい心拍数が不安定になる懸念がある場合
→強心薬の使用でHRが上がることもありますが、不整脈誘発のリスクがあることと、閾値が悪くなった際にHRが不安定になることでRV-COが低下しLV fillingの低下からP-2でもImpellaがサクションとなり留置位置によっては溶血の合併症のリスクが上がってしまいます。
逆にImpella優位にECPELLAを管理するときは上記の懸念が無ければ基本ECMOからweaningしImpella優位に持ち込むため、Impella優位に管理を開始した方がWeaningの期間は短くて済むことになります。
1️⃣は臨床経過で左心機能の回復が早いことが見込めることや自己脈圧が十分に出ていることが挙げられますが、これはImpella CPがP-9相当まで上がる位置とvolumeであれば問題無いことが多いです。
大切なのは2️⃣で当院ではECMO→Impella追加のパターンでは基本LVにpig-tail挿入時には既にECMOが循環を維持しているため慌てずにLVEDP測定とABG測定を追加しています。その時点のLVEDPが高く、LV内の酸素化が悪いことが懸念される場合にはABG結果が出るまでAUTO→P2に下げて管理開始し、PO2が問題ないことを確認したらLVEDP低下による肺鬱血改善→酸素化改善を期待してPlevelを増加させます。AUTO作動は消費電流から最適なP levelに調整してくれるとされていますが留置位置によっては溶血をきたすリスクがあると自分は思っているのでマニュアルに記載された理想状態で出る各PlevelのFLOW(p.22)が確認できる環境であれば手動でレベル設定をします。しかし夜中で人手が少なければAUTOでCCUへ帰室してそれから至適Plevelに変更しています。
特に非ACSのHF-CSではstressed blood volumeが多くECMOもよく回るがImpellaも回る状況になりやすいので脳血流モニタリングに乏しいカテ室での回し始めに低酸素血をAUTOで回してしまわないことが大切なので、これはインターベンション医と普段からコンセンサスを共有しておいた方が良いと思います。
3️⃣と4️⃣は臨床経過で確認していきますが、大切なのは3️⃣4️⃣の問題が生じているのにImpella優位で引っ張る、もしくは評価不足の状態でECMO抜去に行くと高率にECMO再挿入となりますので時にはECMO優位に戻してunloadをする判断も必要となります。
②に関しては上記と被る部分が多いですが、基本ECPELLAセッティングでは補液や強心薬を最初からは自分は使用しないことにしています。
実はガイドラインでも右室梗塞で血圧低下の場合には補液による対処の記載がありますがあくまでカテ室での再灌流まで心停止にさせないための応急手段であり、再灌流後の管理としては右室の回復を妨げるためむしろ右室仕事量を増やす補液・強心薬は害になると自分は考えています。
そのため右室梗塞合併を考えた場合には前負荷、右室への直接負荷、後負荷を減らして早期に右室機能が改善するように管理します。右室そのものは非ショック右室梗塞後に右室機能低下が遷延しにくいことからも適切にunloadできれば左室より心筋量も少ないこともあってか回復は24-72時間の間にはしてくる印象です。(左室も初回広汎前壁AMI後の回復よりもOMIの2nd attackなど元々低心機能の方が代償は早いですよね)
前負荷:太い脱血管を使用して少ないRA volumeでも脱血することでRVへの流入血流を減少させる。さらにRA volumeを減らすためにoverなら除水、normo〜overで調整が必要そうならNTGやプロポフォールによる静脈プールの調整で対処します
右室への直接負荷:強心薬を使用しないこと、鎮静鎮痛による交感神経抑制や心抑制で仕事量を減少させる(Impellaは心尖部留置を行いP2でサクションになりにくくするが、位置が悪い時にはECMO flowを十分に確保して血管拡張薬で血圧を下げて逆流防止作動をさせないようにしてからP1に下げて管理するor5.5へのupgradeを行う)
後負荷:iNOを使用して選択的に肺血管拡張を行うことでRV後負荷低下とLV前負荷増加を共存させるのが第一選択。iNO使用できなければ静注血管拡張薬で調整するがCa拮抗薬はHPV解除による低酸素血増悪の懸念があるため慎重に。
特に右室は心筋量が少ないことから左室の低心機能と同様に後負荷依存性が高いため後負荷減少に対処することが優先順位が高く、iNOは個人的に細やかなECPELLA管理には必須と考えています。
ご質問ありがとうございました。是非またのご質問お待ちしております!