ECMO, impella管理中の方で、エコー指標で見るべきポイントを教えていただけないでしょうか?

メカ医さん
ご質問ありがとうございます。
ECMO,Impella管理中のエコー指標について管理Phase毎に自分が行なっているPOCUS(Point-of-care Ultra Sound)について回答させていただきます。
あまりMCS使用中のPOCUSは報告も少なく、以下は完全に私見ですので実臨床への転用や情報源確認は自己責任でお願いします。
まず初めに自分はMCS含めた心原性ショックの管理は基本的にはECMO管理や敗血症の輸液管理で紹介されることの多い”ROSE”conceptのフレームワークでPhase管理をしています。
“ROSE”concept
1️⃣R:resuscitation = 蘇生期
2️⃣O:Optimize = 適正化期
3️⃣S:Stabilize = 安定化期
4️⃣E:Evacuation = 離脱期(除水期)
今どのPhaseにいるか、またこのPhaseを進めたり戻したりすることは管理上非常に大切で、進めるなら1日でも早く進めることがMCSや挿管管理、薬剤による合併症/副作用を減らすことにつながりますし、逆に戻す決断が遅れれば回復不能となることもあるため複数指標を用いて評価を行いますが、その中でもPOCUSは重要な意思決定支援ツールだと思っています。
1️⃣R:resuscitation = 蘇生期
→DO2を確保し主要臓器だけでなく代償に使用された末梢臓器灌流も蘇生する段階。
→MCSや挿管、薬剤など必要(と見込まれる)治療を迅速に追加して増悪を食い止めることを1stとしたphaseです。
→基本はbedsideから離れず評価と介入を繰り返します。
このphaseではPACがまだ入っていない救急外来やカテ室ではARやVSP、心破裂などOPE or PCIの治療介入やMCSの選択に重要な指標は短時間でも確認するようにします。勿論そもそものショックの原因精査のためのPOCUSも重要です。RUSHやBLUE, CAUSEなどのプロトコルが提唱されているため詳しくは元論文をご参照ください。余談ですがPOCUSでは閉塞性ショックの検出率が高いことがメタ解析でも報告されているため心原性”以外”のショックの合併を発見することも重要です。CPR後などで観察しにくい場合にはTEEも考慮しますが出血による凝固障害時には注意が必要です。
また、ECMOなら脱血管の位置、Impellaなら留置位置やImpella induced AI(AR)の有無などMCSの安全な駆動のモニタリングにも欠かせません。
蘇生に低血圧+High-flow ECPELLA管理を用いる際には血管の狭窄があると一定の圧がないと超えられず阻血が発生してしまうため①頸動脈狭窄がないかどうか②腎動脈加速血流がないかどうか③デバイス遠位の阻血を示唆するSFAのFlow低下が顕著じゃないかどうかを予め見ておくことは非常に重要です。圧を下げる前だけでなく下げた後もその血圧で灌流されているかを確認することが大切ですが、非常に煩雑のため最近では①③はrSO2(組織酸素飽和度)モニタリング、②は尿量でモニタリングしているケースが増えました。
2️⃣O:Optimize = 適正化期
→蘇生が完了、もしくは増悪が停止し回復が見込まれたことで移行する段階。
→蘇生のために追加したMCSの設定や人工呼吸器の設定、volume statusを適正化することで追加された治療の合併症を最小限するための適正化を行います。勿論病勢が改善、最低でも停止していることが次のphaseに進む条件でもあるため、病勢が増悪している場合にはそれに併せた治療強化もこの段階では行います。
→ 基本はbedside assesmentと短期間(数時間〜半日程度)の観察期間を決めて評価し、観察期間中に評価結果で次のアクションを決めておくこと(広義には電解質や輸血などのスケール対応を含む)が中心になります。
ここではPACやモニター、各種治療デバイス上に表示される指標、採血などを元に管理することが多いと思いますが、POCUSはその評価の方向性の後押しをしてくれます。
特に右心機能が保たれているかどうかはECMOを追加するかどうかにも重要ですし、ECPELLA管理中は脱血量が多いとPAPiの評価が難しくなるためTAPSE, RV-S’は積極的に測定しています。最近はRV-FACやRV-straignも自動計測できるので併用しています。Impellaが入っているとLVOT-VTIが測定できないためRVOTーVTIを最近はモニタリングすることが増えました(PACのCCOは1L/min以下だと継続測定されないためEtCO2とRVOT-VTIでCOを評価しています。FloTracは定常流では使用できないのは勿論ですが拡張期流量補助デバイスのECMO,Impella補助下では波形下面積に影響が大きいため使用していません)
LVEDPのunloading具合を評価するためのE/A波、E/e’、左房容積やストレインも評価していますがこちらは参考値となることも多いです。
viewを出すことが難しいことも多いため看護師と協力して体位変換のタイミングを調整し右側臥位で当てたり、逆に左側で見えることもあるので試します。
左肘を挙げて脇を開けさせると肋間が開いて心尖部viewが見やすくなることがあります。
呼吸器設定のTVも影響するのでこちらも調整すると見えることがあります。
3️⃣S:Stabilize = 安定化期
→適正化した治療をWeaningもしくはOff tialにて実際に減量もしくは中止を始めていく段階。
→数日単位での観察期間で次のアクションを決めて動きます。(例えば⚪︎日かけてImpellaのP levelを段階的に落とす、⚪︎ml/dayで除水量を設定し利尿薬スケールを設定する)
→予期せぬ病勢の再増悪や新たな問題の出現時にはPhaseを”O”に戻します=数日単位のtime-limited interventionを中止し数時間〜半日程度に短くするor bedside assessment中心に戻す。
基本的には”O”phaseと観察するPointは一緒ですが、特にVExUS(IVC、肝静脈,門脈,腎静脈のPWを用いてスコアリング)やFV拍動による輸液の認容性を評価し、除水強化の必要性・重要性が上がってくるphaseです。
MCS離脱のための強心薬や血管収縮薬を追加することが増えるので治療介入の前後でエコー評価があると有用です。
動静脈ともにデバイスやその抜去後に血栓付着がないか等も再挿入や交換の時期でもあるため評価をしておくことがあります。
4️⃣E:Evacuation = 離脱期(除水期)
→”S”phaseで問題なく経過して最終的なMCSの離脱や抜管を行える段階のphase
→数日〜週の単位でvolumeの適正化や栄養、リハビリの適正化を考えていきます。
→モニタリングデバイスの離脱も含み、集中治療の終了離脱=出口問題を考えるphaseとなります。
これも”S”phaseと同様ですがvolume statusの評価としてのVExUSだけでなく、PAC抜去していれば拍出量、右心機能、肺高血圧、左房圧、左室拡張能について評価します。(詳細は割愛します)。できれば1日1回はエコー評価を行います。
基本かもしれませんがエコーはIDを入れてちゃんと画像を残すことで電子カルテで過去のものと見比べながら評価していくことが可能になり、有効なモニタリングツールとなりえます。パネル操作などは完全に慣れの部分も多いので普段からTEEやSHD治療に参加したり、生理機能検査室と連携したりすることも大切だと思います。
特に他のモニタリングデバイスでは流量(L/min)や圧(mmHg)はモニタリングできても実際の大きさ(面積や量)を評価することは難しいためエコーは直接評価が可能ですので他のモニタリングデバイスと併用することで拡張された評価を行い、その上で治療介入強化もしくは減量を考えていくと客観性も増し、間違えにくくなるため重症管理の個別化をする上では大切なツールだと思います。
今後は更にこの循環器集中治療管理にPOCUSをどう使っていくか自分も研鑽、研究していきたいと思っておりますので本記載の内容が今後変わるかもしれません。
ご質問ありがとうございました。また是非ご質問お待ちしています!