いつも楽しく拝見しております。
都内に通勤する社会人3年目24歳会社員です。
最近マンション関連のポストをよく見かけます。購入は早い方がよい、家賃を払うのは勿体無いというのが一般的な考え方のようです。
先日入籍し、また半年後に今住んでいる賃貸の更新が控えていることから、マンション購入に興味がありつつも、30歳前後で地方に住む妻の実家近くへの移住を検討(子育ては地元でしたいという妻の要望と、私自身もその地方を大変気に入っているため。)しており、このタイミングで購入しない方が良いのではないかとも思います。
損得についてはある程度シミュレーションできると思いますが、中田さんが同じ立場でしたらどのように判断されますでしょうか。

中田:‖さん
ご結婚おめでとうございます。住居の判断は難しいですよね。「損得」を何で測るのかという問題がわかりやすい課題だと思います。
単純に「最もカネが貯まる方法はどれか」と言われたら、都心でマンションを買ってから地方に引っ越すことだという方向性になるでしょう。今なお地方から東京への人口流入は続いていますから、「人口が減り続ける街の資産価値は減る」論を逆転させれば「人口が増え続ける街の資産価値は増える」ことになり、従って家を保有することの資産性は当然人口増の東京の方が人口減の地方より圧倒的に有利です。仮に80平米の家に住むとして、東京都心の80平米マンションを買い、投資用ローンに切り替えて賃貸に出すだけでも10万円くらいは普通に毎月キャッシュが入ってきます。で、10万円あれば(地方によるとはいえ)80平米の物件を借りることができるわけですよ、一軒家でも。私の生まれ故郷では100平米庭付き一戸建て物件が毎月5万円で貸し出されています。ということは、地方に移り住んだときに東京で貸している賃料だけで「東京の旧宅ローン+地方の新居賃料」を賄えることになり、実質家賃がタダという生活ができるわけですよ。しばしば「東京はマンションが値上がりし続けているので含み益があっても次のマンションの差額で相殺される」と言われますが(いくつかの点でミスリードなのですがそれはここでは触れません)、このラットレースのExitとして有力なのは地方移住です。地方で買い直すにしても賃貸にするにしても、東京都心での消耗から降りて無事に安寧の地に腰を落ち着けることができるのです。多くの人がこれをしないのは、単に地方に行きたくない・地方に職がないという理由ですので、質問者さんのように最初から地方移住が決まっているのであればむしろ東京でマンションを買っておくことは有利とさえ言えるでしょう。
ではなぜ「悩ましい」のかといえば、損得のパフォーマンスは金銭的価値だけで測ることが難しいからです。住居となればなおさら。5-7年間は住むとはいえ、「ずっとここに住むわけではない」家に多額のお金を突っ込めるかというとそうでもないかもしれません。オプションもついついケチってしまって、日々の生活に自ら制限をかけてしまうかもしれません。「不便だけどあと5年の辛抱だから」のように。それは地方移住先でも同様で、そもそも地方の賃貸物件は選択肢が少なすぎて、ご家族にとって満足のいく物件は滅多に見つからないでしょう。だからこそ地方ではみんな一軒家を建てているわけであり、80平米なんてケチくさいこと言わずにどどーんと豪邸を建てればよいのです。土地の安さを活かしてこその地方生活なのですから。がしかし、この豪邸の予算によっては東京のマンションの与信枠が邪魔をしてしまうかもしれません。もちろん東京のマンションを売ればよいのですけれども、希望する価格で売るのに時間がかかってしまうとそれもまた地方移住計画が狂ってしまいます。
あるいは、東京で買ったマンションをむしろ夫婦どちらかが気に入ってしまったが故に人生計画が狂うというシナリオもあり得ます。マンションなんて買わなければ地方移住で合意できていたのに、なまじ資産性のある住みやすいマンションを買ってしまったが故に夫婦の合意に亀裂が入ってしまったら良い結果とは言い難いでしょう。お子さんができたりすると、地縁や学校の事情などでなかなか移住も難しくなったりします。「東京の賃貸なんてマジやってらんねーよ、早く地方で大豪邸建てたいなー」と夫婦で5年くらいワクワクしながら地方移住計画を話し合っている方が幸せかもしれません。
ちなみに我が家の場合は、もともと夫婦とも賃貸派だったのが、ずっと賃料を払い続けていながらも物件価格が上がってきたのを見ていた私が焦り、買い渋る妻を説得して(「ほら、出産記念で買おう!」というお気持ち系のアプローチで)、買ってみたところ妻も気に入ってくれて夫婦とも購入派になったという経緯なので、半ば結果論みたいなところがあります。購入だろうが賃貸だろうが夫婦の亀裂が深まると資産性どころではない損失になり得ますから、ご夫婦の納得のいく形を模索してくださいませ。
(傍論ながら、最近よくある「妻側の実家近くで子育てをする」のは、お子さんが妻実家側の家系に実質的に組み込まれることになり、外形的には夫側が不利な立場に置かれるので、そういうことは意識した方が良いとも思います。これは「夫側の実家に嫁ぐ」形式だった昭和初期の慣習の裏返しだからです。「あなたも合意したんでしょ」と言われることも当時と同じです。合意していても万一の時の立場が不利になるのであれば、最初からそれ相応の手当てが必要だ、という昭和の反省を、立場が反転した形で現代でも活かされるべきでしょう。新婚さんに野暮だと思いつつ老婆心まで)